腹部大動脈瘤について (第14版) 2019年4月22日
開腹手術の併存疾患数と手術成績
血管外科 古屋隆俊
当院の手術成績
1. 予定手術(1992年10月から2019年3月まで、26年6ヶ月間)
最近約26年6ヶ月間に手術を行った非破裂の腹部大動脈瘤 (899例) の患者さんの平均年齢は74.0歳で、210例 (23.4%) は開腹手術の既往を持ち、術前合併症(危険因子。喫煙も危険因子として加えました)は平均2.8個ありました。術前合併症が多いほど手術リスクは高くなります。緊急手術を除いた予定手術(852例)の成績は、
- 合併症数≧6の方は 15例、死亡 1例 (死亡率 6.7%)
- 合併症数≧5の方は 92例、死亡 3例 (死亡率 3.3%)
- 合併症数≧4の方は 254例、死亡 6例 (死亡率 2.4%)
- 合併症数≦3の方は 598例、死亡 3例 (死亡率 0.50%)
- 合併症数≦2の方は 351例、死亡 1例 (死亡率 0.28%)
- 年齢80歳以上の方は 230例、死亡 2例 (死亡率 0.87%)
- 年齢80歳未満の方は 622例、死亡 7例 (死亡率 1.13%)
というように、年齢による差はありませんが、合併症の数により明らかに手術成績に差があります。
2. 緊急手術 (1992年10月から2019年3月まで、26年6ヶ月間)
一方、同時期の破裂した腹部大動脈瘤患者は152例、切迫破裂 (破裂していない、破裂直前の状態) で緊急・準緊急に手術した患者は60例でした。緊急手術では全身状態の評価、禁煙指導、内服薬 (抗凝固剤や抗血小板剤内服中では、出血が止まりません) のチェックなどできず、患者さん側も心構えが無いまま手術となるので、破裂の有無にかかわらず成績は不良でした。
- 緊急手術(非破裂瘤)は 62例、死亡 4例 (死亡率 6.5%)
- 緊急手術(破裂瘤)は 171例、死亡40例 (死亡率 23.4%)
- 80歳未満の破裂例は 125例、死亡21例 (死亡率 16.8%)
- 80歳以上の破裂例瘤は 46例、死亡19例 (死亡 41.3%)
- 85歳以上の破裂例は 19例、死亡12例 (死亡率 63.2%)
さらに、自宅や救急外来で手術もできずに亡くなる方が現実にはたくさんいらっしゃいます。合併症が多い方や高齢者ほど破裂した場合は助かる可能性がないので、破裂する前に十分準備して手術するのが一番安全で、良い結果につながります。
また、循環器内科や脳神経外科などで「血液さらさら」の薬が出ている患者さんは、腹部エコーやCTを行わないと、破裂したら「血が止まらなくなって死亡する危険のある」腹部大動脈瘤を見逃すことになります。ぜひ、人間ドックなどで腹部エコーを行うようにしてください。破裂する前であれば、腹部大動脈瘤は治る病気です。