閉じる

胃がんと言われたら(外科:野村幸博)

1.胃がんの治療は手術が基本

胃がんの治療では、腫瘍を切除することがもっとも重要です。切除の仕方は、病気の進行度や大きさなどに応じて決められますが、当院外科では「胃がん治療のガイドライン」を作成し、これによって切除の方法を決定します。おおまかに分けると次のようになります。

がんが胃粘膜にとどまるもの(ごく早期の胃がん)
内視鏡的粘膜切除術(EMR),腹腔鏡による胃局所切除術など
がんが胃粘膜の下層に及ぶもの(早期胃がん)
腹腔鏡による胃切除術など
がんがさらに胃壁の深部に及ぶもの(進行胃がん)
開腹による胃切除術,胃全摘術など

このように、早期であれば小さな手術を行い、病気が進行するに従って行うべき手術も大きくなります。手術の大きさは、病変に到達する方法(内視鏡的,腹腔鏡的,開腹)と切除する範囲(胃の切除範囲,胃周囲にある所属リンパ節の切除範囲)によって異なってきます。以下におのおのの手術方法を簡単に説明します。

2.胃がんの手術方法

内視鏡的粘膜切除術(EMR)

別項にゆずり省略します。

腹腔鏡による胃局所切除術

腹腔鏡手術は比較的新しい手術法です。
腹部の数ヶ所にそれぞれ2cmほどの切開をおき、カメラのついたスコープを挿入してテレビモニターの画面に腹腔内の映像を映し、さらに数本の長い鉗子を挿入して手術を行う方法です。
胃局所切除術は、がんを含めた胃の小部分を切除する手術で、胃の一部とともに、所属リンパ節のうち胃に近いものの一部が切除されます。胃を切除したところは単に縫合して手術を終了します。

腹腔鏡による胃切除術

腹腔鏡で行うのは胃局所切除と同様です。
ただし、胃を切除するために腹部の傷のうち1ヶ所は約4cmほどの大きさにします。
胃切除には、次の2つの種類があります。
いずれの手術でも胃に近い所属リンパ節はすべて切除します。

幽門側胃切除術
胃の出口(幽門)を含めて胃の3分の2を切除します。再建方法には、残った胃と十二指腸を吻合するビルロート1法と、十二指腸を閉鎖して残った胃と小腸を吻合するビルロート2法があります。
噴門側胃切除術
胃の入り口(噴門)を含めて胃の2分の1~3分の2を切除します。再建方法には、食道と残った胃を吻合する方法と、食道と残った胃の間を小腸の一部でつなぐ方法があります。

開腹による胃切除術,胃全摘術

開腹して行う手術で、従来から胃がんの標準手術とされています。
傷は、みぞおちからへそまでおよそ20cmの長さになります。胃からやや遠い所属リンパ節も切除します。胃切除術(幽門側胃切除術,噴門側胃切除術)は前記と同様ですが、胃がんの部位によっては胃を全部切除する胃全摘術を行うこともあります。
胃全摘術後の再建は、食道と小腸を吻合するルーワイ法で行います。

3.胃がん手術における入院の実際

当院外科では手術方法ごとにクリニカルパスという日程表を作成しており、患者様の入院当日から手術日を経て退院日に至るまでの診療予定を細かく決めています。幽門側胃切除のクリニカルパスでは、手術した日から3日目に歩行可能、5日目に食事を開始、14日目に退院となります。
胃全摘であれば手術後17日目に退院になります。

4.胃がん手術の合併症

  1. 縫合不全・・・吻合部がうまくつかず、腸液などが消化管の外に漏れてしまうことです。
    頻度は約1%で、たいていは絶食にしていると3~4週間で自然に治癒しますが、生命にかかわることもあり得ます。
  2. 膵液瘻・・・膵臓から分泌される膵液が消化管の外に漏れてしまうことです。
    膵臓を切除した場合や、所属リンパ節の切除に際して膵臓を傷つけたりした場合に起こり得ます。自然に治癒するのを待ちますが、治るまでに数週間~数ヶ月かかります。

5.胃がんの手術成績

当院外科における胃がんの手術成績(5年生存率:手術して5年後に何%の人が生存しているかをあらわした数)は、当ホームページの外科のコーナーに公開しています。この結果は日本の他の大病院とほぼ同様の成績です。特に早期胃がんの方の5年生存率は95%以上で、ほとんどが治るといえます。
したがって、胃がんにおいても早期発見がとても大事であることがわかります。

6.胃がん手術の後遺症

ダンピング症候群

食後30分ほどで出現する早期ダンピング症候群と、食後2時間ごろに出現する後期ダンピング症候群があります。

早期ダンピング症候群
食物が小腸にすぐに落ちてしまうのが原因です。糖分の少ない食物を摂るようにし、水分摂取を制限します。
後期ダンピング症候群
早期ダンピングよりも頻度が多く、低血糖が原因です。分食(1日5~6回に分けて食べる)や間食などで予防し、症状が出たら飴などで糖分を補給します。

逆流性食道炎・逆流性胃炎

消化液が逆流しやすくなるために起こります。胸焼けなどの症状があります。就寝前には食べないなどの注意が必要です。

栄養障害

体重減少
食事量の減少や吸収障害などのために体重は増えません。極端な栄養障害がなければ特に心配ありません。
貧血
鉄分やビタミンBの吸収障害のために起こることがあります。薬で改善します。
骨障害
カルシウムなどの吸収障害のために起こり、骨粗鬆症の原因になり得ます。

胆石

胃を切除した後は胆石ができやすくなります。痛みなどの症状がなければそのまま様子を見ますが、症状がある時は手術が必要です。

腸閉塞

胃を切除した方の約10%に腸閉塞がおこります。多くは点滴治療で治りますが、まれに手術治療が必要になります。

退院後の外来通院

外来通院していただく目的は2つあります。1つは、胃切除による後遺症の有無を診断し、治療することで、もう1つは、胃がん再発を早期に発見し治療することです。
外来では、血液検査・腹部超音波検査・内視鏡検査・CT検査などを適宜行います。通院の頻度は、早期がんの方であれば6ヶ月から1年に1回、進行がんの方であれば3~6ヶ月に1回程度です。