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クモ膜下出血について(脳神経外科:持田英俊)

1.クモ膜下出血とは

1)概要

脳の血管が急に切れたり、詰まったりする脳卒中の1つである。脳卒中全体の10分の1を占める。働き盛りに多いので、若年層の脳卒中による死亡原因の2分の1を占める。1年間でこの病気で死亡する人は1万5千人である。

脳を被う膜の1つである、「クモ膜」の下(クモ膜下腔)に出血することであり、その9割以上が脳動脈瘤破裂が原因である。

2)脳動脈瘤とは

  • 脳の動脈の一部が膨らんでこぶ(瘤)を形成する。血管の分岐部に多く、大きさが4mmを越えると破裂し易くなる。
  • 平均7mmで破裂を起こし、クモ膜下出血になる。働き盛りの人に多い。
  • 最近では天地茂、伊藤俊人などがこの病気で死亡した。
  • 脳動脈瘤は小さいものも含め、一般人口の数%にあるといわれる。統計では近親者に動脈瘤があれば、さらに頻度が上がる。
  • 脈瘤が破裂する確率は報告によってかなり違う。文献上は、1年間あたり0.05%〜数%でかなり幅がある。
  • というわけで、動脈瘤は全部が破裂するわけではない。1年間に1万人あたり1人が破裂し、クモ膜下出血を起こす。*当院の診療圏人口は80万人なので、年間80人〜90人が実際に入院される。

3)症状

突然の激しい頭痛、嘔吐、気を失うこともある。軽いものもあるが、頭痛の特徴は突然発症で発症時刻がはっきりと指摘でき、初めて経験する頭痛で、数日間は続く。

4)診断

動脈瘤破裂の1割以上はその場で死亡する。典型的な場合、救急車で運ばれ、CTを撮って確定する。軽症だと片頭痛、肩こり、風邪と間違われ、診断が見逃される。CTでもハッキリしない場合、腰に針を刺し、髄液を採取して確定する。

5)何が危険なのか

破裂動脈瘤は短期間のうちに再破裂を繰り返す。再破裂の際の死亡率は5割以上=頭の中にいつ爆発するかわからない爆弾があるのと同じ。
統計上、再破裂率は24時間以内5%、その後1%/日で2週間で20〜30%、半年で50%以上とされる。

6)初期治療は

  1. 呼吸管理=意識障害があるとき必要
  2. 圧のコントロール=高血圧は再破裂を誘発する
  3. 鎮静・鎮痛=これも再破裂防止に必要。

7)1カ月後の予後(入院した人の)

全治:5〜6割、後遺症残る:1〜2割、死亡:2割

8)治療

再破裂の防止が最も重要=

  1. 開頭手術によるクリッピング
  2. 血管内手術(動脈瘤塞栓術)の2つがある。

2.脳ドックについて

1)脳ドックとは

  • 脳ドック;MRIとMRAによる脳卒中、脳血管性痴呆の予防をうたい文句にする。利用料金は平均5万円。(5千円〜20万円)
  • 脳ドックの現状:実施施設は全国で600以上。脳ドック年間10万〜数十万人(人間ドック受診者は年間300万人以上)
  • 脳ドックの結果、約3〜4%に脳動脈瘤が発見される。そこで、クモ膜下出血の「予防手術」が行われている
  • 動脈瘤の破裂率:年間0.05%〜数%で報告によりばらつきがあり、確定していない。(現状では1%/年が妥当と思われる)
  • 「予防手術」を実施すると病院は200〜300万円の収入を得る。(クリッピング術自体のの保険点数は64,000点)

2)そのほか脳ドックでわかること

  1. 脳卒中の危険因子
  2. 無症候性脳梗塞
  3. 無症候性頭蓋内・外の血管の閉塞・狭窄
  4. 高次脳機能障害(ぼけが始まっているか)
  5. その他脳の器質的疾患

上記の1〜4では、まず日常生活上の指導、内服など、手術以外の方法で対処する。

3.未破裂動脈瘤が見つかったら

1)どうすべきか

  • 結局は、そのままにした場合の危険と、手術に伴う危険を比較衡量して決めるしかない。
  • そのためには十分なインフォームド・コンセントが必要。
  • 当院では手術による死亡・後遺症が残る危険は5%、年間破裂率は1%として説明している。
  • なお、脳ドックというものは、日本にしかない。
    -->したがって、「予防手術」なるものも日本にしかない特殊な治療。
参考になる本「脳ドックは安全か」山口研一郎著(小学館)
書評;脳ドックを受ける人は、健康なことを確認したいと願っているだろう。でも殆どが異常といわれてしまう。そして手術になる可能性が高い。ドック受診を決めるその前に、手術死を含む後遺症の危険を本書によって知るべきである。
(近藤誠;慶応大学医学部放射線科講師)

2)脳卒中の危険因子

高血圧、喫煙、糖尿病、アルコール過剰摂取、高脂血症、肥満、心臓病
未破裂動脈瘤があって手術をしない人は特に高血圧の治療、禁煙が重要です。

4.科学的根拠のある治療法(EBM)について

患者数、死亡数の多い病気にで、優先順位の高い疾患につき、科学的根拠のある治療法などの治療指針と最新の医学文献をホームページで公開することにした。

患者数が多く、死亡数の高いものを対象疾患とし、以下が選ばれた。

  1. クモ膜下出血
  2. 脳梗塞
  3. ぜんそく
  4. 糖尿病

参考になる本「正しい治療がわかる本」福井次矢著(法研)

5.当院の治療の現状について

1)破裂動脈瘤

概略
  • 年間80人〜90人が入院されます。このうち、開頭手術が50人内外、血管内手術が10人程度です。
  • 開頭手術は70歳以下で状態のよい方に早期に行います。
  • 血管内手術は、高齢者か、70歳以下でも状態の悪い人に行います
昨年度の統計(H14年度)
  • クモ膜下出血入院人数88人
  • クリッピング件数50件(予防手術2件を含む)
  • 血管内手術件数13件(予防手術1件を含む)

2)未破裂動脈瘤

1.当院で発見された場合
  • 手術した場合と、そうでない場合の危険率を説明します。
  • 他の脳外科にセカンド・オピニオン(※)を求めることが可能であることを説明します。(紹介状・資料をお渡しします)
  • もし、治療するのであれば、本人のみならず、家族全員の同意が必要である旨、説明します。
  • すぐに手術しない場合、定期的にMRIでチェックして、大きくなれば手術という方法もあることを説明します。

→選択内容

  1. a.すぐに治療
  2. b.危険因子をなくすようにして、定期的に検査を続ける。(様子を見る)
  3. c.何もしない

※セカンド・オピニオンとは?
ある病院の治療方針(特に手術)に同意できるか迷うとき資料を借りたり、紹介状をもらい他の病院の専門家に相談すること。(脳外科→脳外科という場合が多い)

参考(当院での状況)

  • 通常の人間ドックのオプションの1つとして、「脳疾患検診」という項目があります。ここでMRIを撮ります。ですから、脳ドックと銘打って行っていません。
  • 人間ドックを受けられら方の1割強(年間150人ほど)が受けます。
  • 人間ドックのパンフレットの記載は以下のようです。

目的:脳卒中を未然に防ぐことができるようになります。脳腫瘍はごく初期の段階で発見することができます。
検査方法:MRI(超伝導磁気共鳴画像診断装置)というベッドの上に寝ているだけの、安全で痛みのない検査です。

2.他院で発見された場合
  • どのような説明を受けたのか伺います。
  • 資料の貸し出しか可能かを伺います。
  • 年間破裂率はそれほど高くないこと、手術による危険の内容を具体的に説明します。
  • 当院での現状を説明します。
  • すぐに手術しない場合、定期的にMRIでチェックして、大きくなれば手術という方法もあることを説明します。

→選択内容

  1. a.すぐに治療するか否かを決める→その場合、どこで治療するか?
  2. b.危険因子をなくすようにして、定期的に検査を続ける。(様子を見る)
  3. c.何もしない

昨年度は、他院で発見され、予防手術になった方が3人いました。やはり、大多数の方が、bを選択されました。そうゆうわけで、現在外来で未破裂動脈を追跡中の方が100名近くにのぼります。

3)高齢者のクモ膜下出血

1.概略
  • 体力的に手術ができない、脳の回復力がない、脳梗塞などの病気が元々ある、全身の合併症を起こしやすい。
    →75歳以上の方の場合、死亡率は非常に高くなります(若い人の2倍以上)
  • たとえ、命をとりとめても、寝たきりになることが多い。
  • 最近、血管内手術で治療可能になる方がいる。
2.75才以上の入院統計(H14年度)
  • 全クモ膜下出血88人中17人(19.4%)
  • 全治退院1人(5.9%)
  • 要介助退院5人(29.4%)
  • 死亡7人(41.2%)

6.まとめ

  1. クモ膜下出血は脳動脈瘤が破裂して起こる脳卒中の1つです。
  2. 働き盛りを突然襲い、治る人、治らない人の差が歴然です。
  3. 破裂脳動脈瘤はきわめて危険ですが、未破裂動脈瘤はそうでもありません。
  4. 前もって脳動脈瘤が見つかる時代になりました。
  5. 未破裂動脈瘤が見つかったら、いろいろ意見を聞いて治療を受けるか否かをはっきり決めておきましょう。
  6. どこで治療を受けるかは、デパートと同じで、自分の好きなところを選ぶ時代です。
  7. 当院の治療の現状を紹介しました。

市民講座のアンケートの結果集計(総数156通)

設問1)当院では脳ドックを単独では行っておりません。今回の市民講座をお聴きになって、他の施設で受けてみたいと思いますか?
是非受けたい。(16%)
機会があれば受けたい。(51%)
受けたくない。(35%)
その他(7%)
未記入(11%)

設問2)その結果、脳動脈瘤が見つかった場合、あなたはどうしますか?
できるだけ早く予防手術を受けたい。(27%)
日常生活に注意し、しばらく定期的に外来で様子を見たい。(63%)
仕方ないことなので、そのまま放置する。(5%)
その他(2%)
未記入(5%)

設問3)身近な方で、クモ膜下出血になった方はおられますか?
いる(42%)
いない(58%)

設問4)その他、ご意見がありましたら、ご記入ください。
患者は病気について悶々の日々です。先生方は、病気を診るのは上手、すばらしいと思います。が、患者の心を診ることも非常に重要事項と思考します。この件については、旭中央病院はどの程度進んでいるのでしょうか。
スライドだけでなく、「緩和ケア・・」のように資料があればよかった。書くのが追いつかなかった。
旭中央病院は県職員の人間ドックの指定病院になっていません。東部地区の主要病院として、指定になるようにしてもらいたい。必要に応じ、脳検査も受けたい。
一度おきた人の、手術後の生活指導もしてほしかったです。
アンケートの結果をホーム・ページ以外でも知りたいです。
以前、当病院で脳MRIを受けて異常なしといわれたが、他の病院で受診したら、脳動脈瘤が見つかりました。そこで、レントゲン写真の読み方に誤りがあったのではないかと思いました。ただし、セカンドオピニオンを快く受け入れてくれる当病院の方針には感謝しています。
脳ドックは人間ドックのオプションでなく、脳ドック単独で設けてほしい。
説明は分かりやすくてよかったが、ペンライトの動かし方が、早すぎた。高齢の方もいたので、そのあたりの配慮があってもよかったかと思った
設問2のaで予防手術を受けたときの保険点数はいくらぐらいか。
講義内容を書き取っていたが、ついていけなかった。内容には非常に満足しているのですが、もう少し、ゆっくりと話してもらえないだろうか。
担当講師から
脳ドック、受けるつもりのある人が多いのに驚きました。ただし、「受けない」と言う人が3割以上に上ったのも、講義で「予防手術」の暗い面を指摘したためと思います。
動脈瘤が発見された方に日常診療で説明をした場合、予防手術を希望される方は1割以下ですが、今回のアンケートで3割近くに上ったのには驚きました。当院での未破裂脳動脈瘤の治療方針、説明内容について、8割以上の方がある程度のご理解いただけたのはうれしく思います。
今回の講義の目的をある程度達成できたと思います。
設問4について
講義が早すぎたというご指摘が多かったようで、反省しております。持ち時間が40分なので、つい早口になってしまいました
そのほか、当院のMRIで見落とし(誤診)があった可能性があったとのよし、まことに申し訳ございませんでした。(言い訳として、当院は脳ドック専門の病院と比して、MRIの機種がやや古い点、数年前には見つからなくても、そのあとで、大きくなって見つかることもある点を挙げたいと思います。)
病気を診るのではなく病気を持った患者を診るべきでというご指摘、ごもっともです。日常の診療ではつい、検査に頼ってしまい、「木を見て森を見ない」ということになってしまう傾向は否めません。貴重なご忠告を十分日常の診療に生かしたいと思います。
当院で脳ドックの実施を希望されるご意見もありました。現状では、処理能力上、難しいのですが、今後の課題として検討させていただきます。